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日・独がアメリカより金利を低く設定したことによって、プラザ合意後もドル債投資が続行された、と断定できるであろうか。
一歩立ち止まって考える必要がある。
こうした「国際政策協調」によって日米間の長期金利に三%程度の差があった場合、米国債は日本の機関投資家にとって十分魅力的であり、投資継続は経済的合理性に基づいて行われるといえるだろうか。
金利差は基本的に資金移動の誘因になり得るが、八六年以降の金利差は、八〇年前後にくらべれば、かなり縮小している。
この程度の金利差はドルの水準如何によっては何の意味もなくなることを、彼らは経験したばかりである。
とすれば、ジャパン・マネーがドルの水準をどう見ていたかという問題が、ここで大きく浮かび上がる。
一つはプラザ合意以降、ドルはたしかに暴落したが、それでもこの水準が「底」と機関投資家たちが判断したという仮説である。
ルーブル合意の時点におけるドル相場が「底」だと判断されたのならば、以降の投資については利回りが確保され、かつてのドル高の時期の投資分とあわせ、平均買値を下げる効果もあったであろう。
当時、マーティン・フェルドシュタインが、ニューヨークのジャパン・ソサエティで講演し、「ジャパン・マネーの対米流入を継続するには、いったんドルを下げ過ぎの状態にして『底値感』を出すことが必要」と語っていたのを筆者は今も思い出す。
アメリカの政策担当者が、為替市場の自在な操作を暗黙の前提として議論を進めている事実は、こうした発言からもはっきりと読みとることができるだろう。
筆者は、日本の産業界にとって事業の基本的与件となっている円・ドル関係を、アメリカの都合で動かされてどうなるのだろうかと懸念を抱かずにはいられなかった。
先に紹介したクルーグマンによる「MAモデル」の政策的含意も、結局は「貿易収支均衡のための為替市場の操作」に行きつくのであるが、彼は、資本の動きについても「MAモデル」に基づいて、八〇年代後半、利子率の低下にかかわらずアメリカが外国資本の流入を誘引し続けられたのはなぜか、という大問題を解こうとする。
その答えは結局、貿易におけると同じように、ある時点でのドルのじゅうぶんな切下げであるとして、以下のような論理を展開するのである。
財政が緊縮的で金融が拡張的な国は国内金利が低下し、そのため通貨は切り下がって経常赤字は圧縮される。
しかし短期的には、Jカーブ効果のため、実際はこの国の経常赤字が拡大するので、外国人投資家が引き続き赤字を埋める気がなければ、通貨はとめどなく下落してしまうことになる。
国内金利が低下しているこの国で、何が外資流入をひきつけるか。その答えは通貨の下落それ自体にある。
通貨が経常収支をバランスさせるような、きわめて低い水準にまで下がると、いずれこの低水準から回復するはずだ、と投資家はみる。
外国人投資家としては、ここで通貨(ドル建て資産)を買っておけば将来大きな値上がり益を得られると予測するがゆえに、資本を流入させる。
この資本流入は通貨(ドル)の下落に歯止めをかける一へ経過期間の赤字を埋めるために利用できるだろう。
時黙の行政指導ドルが「下げすぎ」と見れば外国資金は買いに入り反騰に向かうというのは、一般論としてはそのとおりかもしれない。
しかしプラザ合意以降、ドルは落としに下落し続けており、八七年にはブラック・マンデーというニューヨーク株式市場の暴落もあって、ドルは一時、一二〇円にまで切り下がっている。
日本の機関投資家の投資行動が、将来の大幅値上がり益を期待してのものであったとはとうてい考えられないのである。
それでは何がいったい彼らをドル債購入に駆り立てていたのか。
国際資本移動をめぐって精微な数学的モデルが展開されることも多いが、ドラッカーにとっても「謎」であったジャパン・マネーの米国債購入について、じつは二つの意外な動因があった。
その一つは、きわめて特殊日本的な政・財・官の関係である。
いまさら多言は要しまい。
大蔵省と金融界の日本独特の関係はここでは「護送船団方式」のもとで、日本の銀行や証券会社、生保などの機関投資家などが、大蔵省から常に暗黙の行政指導を受けていたが、八〇年代の後半には、アメリカの長期国債の入札が近づくたびに大蔵省の担当者から電話が入ったという。
用向きは、アメリカ国債への応募や購入の意向に関するヒアリングである。
しかし、ついでに必ず他社のアメリカ国債購入状況について説明がある。
こうなると機関投資家としても黙過できない。
当局の意を迎えるべく行動せざるを得なかった、と密かに洩らすジャパン・マネーの担当幹部は多かった。
生保が組み入れられた金融村においては、大蔵省自身にとっては単なる「ヒアリング」と言い抜けることのできる言動が、村八分を恐れる大きな圧力となって現れる。
これが機関投資家をドル債投資という非合理的行動に走らせたのである。
当時の事情を少しでも知る関係者であれば、このことをけっして否定はしないであろう。
当時、大蔵省は、ドルを支えるためにあらゆる努力を惜しまなかった。
こんなエピソードもある。
時はレーガンからプッシュへ、共和党政権継続の成否をかけた大統領選挙も間近な、一九八八年三月のことである。
アメリカの債券市場は、日本の機関投資家が、年度あけに、ドル債を売りにでるのではないかという噂でもちきりだった。
そこで、大蔵当局は、債券市場の動揺を抑えるべく、日本の生命保険会社に「四月になっても債券を売るつもりはない」と声明を出すよう求めた。
次に、こうした「約束」を市場が信用していないと見ると、今度は大蔵省の担当官が自ら市場関係者を回って、声明の背後には大蔵省がいるのだということを強調した。
さらに日銀は日銀で、「保有する外貨準備の九割はドルで運用している」ことを公表し、市場の安定に努めている。
ちなみに、九割といえば、これはカナダの運用状況に匹敵しょう。
当時、アメリカの金融市場では、「大蔵省はブッシュ候補の選挙事務所のようだ」という声も聞かれた。
日本政府が、共和党を民主党より日本に宥和的と見て、プッシュ政権の誕生を支援し、そのためにはウォール街にわずかの波乱も招かぬようにと考えていたことは明らかであった。
バブルというバッファだが、そうした大蔵省の活躍にもかかわらず、さらに問題は残る。
アメリカ国債への投資継続は、いかに当局の暗黙の指導があったとはいえ、経済的合理性からみればいかにもリスクが高すぎる。
そこには何らかの心理的緩衝装置が存在したはずである。
じつはそのバッファの役割を担ったのが、第二の動因、すなわち八〇年末にかけてのバブルの含み益にはかならなかった。
先にもふれたように、プラザ合意後のアメリカとドイツ・日本の協調利下げの結果、日本の公定歩合はアメリカに対して低く設定され、さらに八七年の二月には、おそらくはドル安に歯止めをかけるルーブル合意の代償として、日本は独自の引き下げを行っている。
こうして生まれた二・五%という超低金利が、八九年の五月まで、なんと二年三カ月にわたって放置された。
漢この長期にわたる低金利政策が、円高に対抗するための日銀のドル買い円売り介入と相侯って過剰な通貨供給を生み、それが不動産市場と株式市場に吸引され、空前のストック・インフレをともなうバブル経済を生み出した。
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